日本の全法令をGitの履歴に、個人の「houritsu」とは【2026年11月】
「日本の全法令が Git の履歴になった」——はてなブックマークのテクノロジー部門で1位になった話題の中身は、個人の開発者が公開したオープンソースのプロジェクトでした。
GitHub アカウント Kohei-Wada さん(Zenn では kohei さん)が公開した「houritsu」は、デジタル庁の e-Gov 法令検索のデータをもとに、日本の法令を1つずつ Markdown のファイルにし、改正法の施行1回を1コミットとして積み上げたリポジトリです。作者は2026年11月1日に Zenn で制作の経緯を公開し、11月5日には窓の杜も紹介しています。

デジタル庁の公式サービスではありませんが、「この改正で何が変わったのか」を開発者になじみのある diff で読めるようにした取り組み——という位置づけです。
この記事はこんな人向けです
- 「日本の全法令がGitの履歴に」という話題が、誰の何のプロジェクトなのか知りたい
- 法改正でどこが変わったのかを、差分(diff)で追ってみたい
- e-Gov 法令検索や法令 API などの法令データの使い道に興味がある
houritsuとは?一言でまとめると
日本の法令の改正の歴史を、Git のコミット履歴として読めるようにしたデータです。README の説明をまとめると次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名前 | houritsu(GitHub:Kohei-Wada/houritsu) |
| 公開した人 | Kohei-Wada さん(個人。デジタル庁の公式ではない) |
| データの出どころ | e-Gov 法令検索の法令データ(法令 API v2) |
| 単位 | 1法令=1ファイル、改正法の施行1回=1コミット |
| 法令ファイルの数 | 8,982個(作者の Zenn 記事の時点) |
| コミットの数 | 23,338個(同上。main ブランチ) |
| 更新 | 毎朝、e-Gov から差分を取ってコミットを足す(作者の Zenn 記事) |
| ライセンス | データは CC BY 4.0、変換ツールは MIT |
| 正本 | 官報(houritsu は公式の本文ではない) |
誰が作った?デジタル庁の公式ではない
houritsu は、Kohei-Wada さんが GitHub で公開した個人のプロジェクトです。データは e-Gov のものですが、デジタル庁が Git の形で配っているわけではありません。
作者の Zenn 記事によると、作者は法律についてはまったく詳しくないと書いています。そのうえで「最近は AI のおかげで、知らない分野の調べものがとても速くなりました」とし、AI と一緒に知らない分野でどこまでできるかを試したかった、と動機を説明しています(出典)。
同じ記事では、先にあった例として、ドイツの連邦法を Git で管理する bundestag/gesetze や、e-Gov の全法令を毎日スナップショットしている elaws-history にも触れています。
元になっているデータは、デジタル庁が提供する 法令 API Version2 です。デジタル庁の案内によると、Version2 は 2025年3月14日にリリースされ、特定の時点の検索やその時点の条文の取得ができるようになりました(出典)。houritsu はこのデータを、変換ツール houritsu-builder(Rust 製)で Markdown と Git の履歴に組み立てています。

仕組み:1つの改正が1つのコミット
日本の法律の改正は、「〇〇法の一部を改正する法律」という別の法律で行われます。作者の Zenn 記事によると、その改正法は「第三条中『A』を『B』に改める」のような書き換えの指示になっているため、元の法律のどこがどう変わったのかが分かりにくい——というのが出発点です。
houritsu では、法令の本文をファイルにし、改正法が施行されるたびに1コミットを作ります。

- コミットの日時=施行日(日本時間の0時)
- main ブランチは施行済み、upcoming ブランチは公布済みでまだ施行されていない改正
- コミットには、改正法の ID(Amendment-Law-Id)・施行日(Enforced)・国会の議案(Bill)・提出者(Bill-Submitter)・衆議院の議案本文へのリンク(Bill-Url)が付く
- 法令が廃止されると、廃止法のコミットでファイルが消える。それまでの履歴は残る
ファイル名には e-Gov の法令 IDが使われています。法令の題名が変わっても ID は変わらないためです。
何ができる?Gitのコマンドで法改正を追う
README と作者の記事で紹介されている使い方は、主に次の3つです。
① 法令ごとの改正の一覧を見る
git log に法令のファイルを指定すると、その法令の改正の一覧が出ます。README では、個人情報保護法のファイル(laws/act/415/415AC0000000057.md)の git log が、そのまま個人情報保護法の改正履歴になる、と説明しています。
② 1回の改正で何が変わったかを見る
git show <コミット> で、その改正で変わった条文の差分が見えます。「第三条中『A』を『B』に改める」という指示を読み解かなくても、変更前と変更後が並んで見えるのが一番の特徴です。
③ 特定の条文の移り変わりを追う
git log -L で、1つの条文だけの変遷を追えます。README には、見出しの深さが条によって違うため、第十六条 から 第十七条 までのように正規表現で範囲を指定する例が載っています。
法令を題名で探すときは、README のとおり git grep で frontmatter の title を検索します。
GitHub の新機能の動きは、こちらの記事でもまとめています。

Gitの意外な弱点:1970年より前の日付
窓の杜が見出しで「Git の意外な弱点」と紹介したのが、日付の問題です。
作者の Zenn 記事によると、Git はコミットの日時を Unix 時間(1970年1月1日0時 UTC からの秒数)で持っていて、マイナスの値を受け付けないため、1970年より前の日付でコミットできません。
1970年より前に施行された法令もあるため、作者によると houritsu では1970年より前のコミットが317個あります。いちばん古いのは、太陽暦に切り替えた明治5年の改暦ノ布告です。
| 項目 | houritsu での扱い |
|---|---|
| 1970年より前の施行日 | コミットの日付は 1970-01-02 に寄せる |
| 本当の施行日 | コミットの Enforced トレーラーと frontmatter に書く |
| 施行日がまだ決まっていない改正 | upcoming の最後のコミット(日付は e-Gov の仮の値 2117-12-31) |
Git の履歴だけを見ると日付がずれて見えるものがあるので、正確な施行日は Enforced と frontmatter で確かめる必要があります。
使うときの注意点:正本は官報
README の「Limits」には、使う前に知っておきたい限界がはっきり書かれています。
- 履歴は2015年ごろから:制定時からの全履歴ではない。e-Gov の改正データが2015年ごろから増えるため
- git blame は「文言ができた日」ではない:収録が始まる前からある条文は、最初のコミットの日付になる
- 約3分の1の法令はコミットが1つだけ:履歴が少ない法令も多い
- v1.0 までは履歴が作り直されることがある:コミットの ID(SHA)は変わりうるので、参照は law_id と revision_id で
- 公式の本文ではない:正本は官報。法的助言でもなく、頼る前に e-Gov か官報で確かめるよう書かれている
また、目次は省略され、表は HTML、図や様式は e-Gov の添付ファイルへのリンクになっています。README によると、図の約3割は e-Gov に画像がなく「(図:e-Gov に画像なし)」と表示されます。
データのライセンスは CC BY 4.0 で、出典の書き方も README に示されています。条文そのものは著作権の対象ではない(著作権法第13条)とも書かれています。
コミットで変更を記録・固定する考え方は、開発の現場ではおなじみです。

反響:はてなブックマークで1位、窓の杜も紹介
この話題は、2026年11月5日にはてなブックマークのテクノロジー部門で1位になりました。
窓の杜の紹介によると、記事の時点で法令ファイルは8,982個、コミットは23,338個で、GitHub の画面からも各行の変更をたどれることを取り上げています。あわせて、Git が1970年より前の日付を扱えないことを「意外な弱点」として紹介しています(出典)。
作者の Zenn 記事のコメント欄では、作者自身が houritsu を「巨大なコードベース」とみなして Claude Code にコードレビューさせてみたと書き込んでいます(出典)。
IT Picksで確認したこと
2026年11月5日時点の GitHub のリポジトリ「Kohei-Wada/houritsu」で、トップページと個人情報保護法のファイルを確認しました。
トップページには 23,345 Commits と表示され、作者の記事の時点(23,338個)より7個増えていました。作者は Zenn の記事で、毎朝自動で e-Gov から差分を取ってコミットを足していると書いています。ブランチは main と upcoming の 2つでした。
README・LICENSE などの最初のファイルは「リポジトリの初期化」のコミットのままで、更新日時は 「57 years ago」(57年前)と表示されていました。初期化のコミットも 1970年1月2日の日付になっているためで、1970年問題の扱いが GitHub の画面にもそのまま出ています。

個人情報保護法のファイル(415AC0000000057.md)を開くと、冒頭に law_id・題名・略称(個人情報保護法)・revision_id・最後の改正法・e-Gov の該当ページへのリンクが表で並び、その下に条文が続いていました。

リポジトリを取得してこのファイルの git log を出すと、コミットは 30件で、いちばん古いものは 2017年3月1日でした。先頭の5件は次のとおりで、コミットの件名が改正法の名前になっています。

2026年7月17日の「個人情報の保護に関する法律等の一部を改正する法律 施行」のコミットでは、このファイルで 23行の追加と7行の削除がありました。改正の大きさが行数でひと目で分かります。
IT Picks的な所感
houritsu の面白さは、法律の改正という「差分の指示書」を、開発者が毎日見ている diff に置きかえた点にあると思います。改正法の条文を読み解かなくても、変更前と変更後が並ぶのは、法令を追う人にとって分かりやすい形です。
一方で、作者自身が README で正本は官報・法的助言ではない・履歴は2015年ごろからと限界を明記しているとおり、仕事で条文の正確さが必要な場面では、e-Gov や官報で確かめる前提で使うのがよさそうです。v1.0 までは履歴が作り直されることもあるので、コミットの ID をリンクとして残すのも避けたほうが安全です。
デジタル庁が法令 API を公開し、それを個人が AI の力も借りて形にする——公的なオープンデータの使い道の良い例として、今後の v1.0 や使われ方を見守りたいところです。
まとめ
houritsu のポイントをまとめます。
- 公開した人:Kohei-Wada さん(個人のオープンソース。デジタル庁の公式ではない)
- データの出どころ:e-Gov 法令検索の法令データ(法令 API v2)
- 仕組み:1法令=1ファイル、改正法の施行1回=1コミット
- 規模:法令ファイル8,982個・コミット23,338個(作者の記事の時点)
- できること:git log で改正の一覧、git show で改正の差分、git log -L で条文の変遷
- Git の弱点:1970年より前の日付は1970-01-02に寄せ、本当の施行日は Enforced と frontmatter に
- 注意点:履歴は2015年ごろから、正本は官報、v1.0 までは履歴が作り直されることがある
- ライセンス:データは CC BY 4.0、変換ツールは MIT
法改正の中身が気になる法令があれば、まずは GitHub のリポジトリでその法令のファイルの履歴を開いてみてください。
